研究テーマ・研究概要 2018-

 自然災害・人為災害を対象として、安全に関する情報行動、安全に関する社会情報学に関する知見の蓄積と研究領域確立を目指して研究を行っている。総じて、災害情報に関する基礎的・実践的な学術分野の構築を目指す。

(1)巨大災害の社会心理と情報伝達の研究―原子力災害に関する社会心理学的研究

 第一に、マクロ的な社会心理学研究として「巨大災害の社会心理と情報伝達」の研究を進めている。これは、主として東京電力福島第一原子力事故を研究対象として、原子力災害時の避難、原子力災害の社会的影響に関する研究という大きく二つの方向で研究している。
 一つは大規模広域避難の研究である。東京電力福島第一原子力発電所事故における大規模広域避難としては、自らの研究として、また政府事故調政策・技術調査参事、内閣官房東日本大震災対応総括室の委員、原子力損害賠償紛争解決センター「原子力損害の和解の仲介に関する調査」座長として、行政の広域避難に関する質的調査、住民の広域避難に関する量的調査にかかわり、分析を実施してきた。今一つは、原子力災害の社会的影響・風評被害、復興過程の実証調査および分析である。福島大学客員准教授として、福島大学農学系教育研究組織設置準備室、JAグループとともに、全国規模の量的調査を継続して実施してきた。またNSF/JST主催シンポジウムでの発表、OECD-NEA主催会議のVice-chairを務めるなど国際的にも広く発信を行っているところである。

 なお、この研究は二つの方向性で展開している。
 一つは、これら実証的知見を活かしながらの原子力災害への還元である。原子力事故における避難計画の策定、汚染水などの廃炉計画、観光業、農産業などの産業復興に関して、福島県・浪江町および新潟県などの復興・防災に実務的にも関わっているところである。
 もう一つは、大規模避難研究への進展である。戦後、10万人以上が大規模広域避難を行った災害は福島第一原子力発電所事故だけである。これらの知見を首都直下地震、首都圏大規模水害、国内外の原子力事故などbの大規模広域避難や災害時の産業復興の施策につなげる研究へと昇華させる予定である。
 また福島大学ほかとともに、チェルノブイリ原子力発電所事故と福島第一原子力発電所事故における緊急対応、復興過程の比較研究を行う予定である。

  • 東京電力福島原発事故時の大規模広域避難、行政機能移転の研究
  • 東京電力福島原発事故後の農産物・海産物の消費・流通、および観光の実証研究
  • 復興過程の社会現象、心理現象の研究
  • 原子力事故対応の研究

(2)「避難行動」の社会心理学的研究

 第二に、ミクロ的な社会心理学研究として避難実態、避難要因の基礎的調査研究を継続して実施してきている。20年来、自然災害における被災者に対する調査を繰り返し行う中で、避難行動の要因としては、①リスク要因、②規範要因、③(心理的)コスト要因が、危機時の人間行動に大きな影響を与えていることが明らかになってきている。現象そのものや災害情報を通じてリスクが認知されること、周囲他者からのコミュニケーションや事前の教育を通じて「避難」の規範が構築されること、③避難所の環境整備など避難にあたってのコストを下げることなどが①~③に影響を与え避難につながることを明らかにしつつある。現在、①と②の相反関係、災害種による重みづけ、事前教育や緊急情報がこれらにどのように影響を与えるかの研究を行っている。これらから、避難を促進するためのリスク・コミュニケーション技法の構築を目指す。
 現在、日本海地震・津波調査研究プロジェクトの一環として、また災害発生毎に静岡大学、山梨大学、群馬大学、愛知工業大学の防災研究者とともに共同研究を積み重ねているところである。また国際比較研究としてJST-JICA「インドネシアにおける地震火山の総合防災策」以降、インドネシア大学とともに火山からの避難について共同研究を行っている。

  • 避難の意思決定に関する研究
  • 津波、水害、土砂災害時の避難に関する調査研究
  • 首都直下地震における火災避難の研究

(3)次世代災害情報の研究:応用研究1

 第三に、応用研究として、学外の諸機関とユーザビリティを前提とした「次世代災害情報の研究開発」を行っている。災害時などの緊急時におけるデジタルサイネージを用いた情報提供、ビッグデータ等の可視化技術、SNS、AI、センサーネットワークの災害時の活用に関する研究などである。これらは平時の技術であって、緊急時に使える技術とはなっていない。だが期待は大きく、内外で様々な社会実験が行われている。筆者も様々な社会実験を繰り返しながら、これを情報技術の災害対策への応用について技術的、社会的、心理的側面から課題抽出を行いつつ、実現可能なメディアおよびコンテンツ開発ないしは要件の整理を行う。
 現在はデジタルサイネージを通じた災害情報配信技術の研究、センサーネットワークの研究、ビッグデータを用いた研究開発を行っている。

  • 災害時など緊急時におけるデジタルサイネージを用いた情報配信技術の研究
  • 災害時など緊急時におけるデジタルサイネージ等における情報配信コンテンツの開発
  • センサーネットワークの災害時の活用に関する研究

(4)災害情報の広報(アウトリーチ)に関する研究:応用研究2

 第四に、応用研究として「災害情報に関するリスク・コミュニケーション研究」を行っている。地震・火山情報、防災気象情報などハザードに関連する科学的な知見を住民がどのように理解しているか、それをどのように防災に結び付けていくか、方法論に関する研究を蓄積していきたいと考えている。これまで広告・パブリックリレーションズ研究を基礎に、地震動予測地図や気象情報の研究、環境問題(環境広告)、放射性物質の理解の研究など、人間の心理を軸とした科学の理解に対する実証的研究を蓄積してきた。
 現在、文部科学省日本海地震・津波調査プロジェクトに参画し、津波防災・地震防災に関するアウトリーチ活動を行ってきており、また文部科学省次世代火山研究・人材育成プロジェクトのリスク・コミュニケーション担当プロジェクトアドバイザーとして火山研究のアウトリーチに関する研究・実践を行っている。防災分野におけるコミュニケーション研究の実践として、サイエンスと人々をつなごうとする研究を行っている。

  •  一般的な広報・PRの研究
  • 地震動予測地図の研究
  • 火山情報、防災気象情報の研究
  • 災害情報に関する高度職業人養成に向けた災害・防災教育プログラムの開発
  • 地震・火山情報、防災気象情報などハザードに関連する科学的な知見の理解に関する研究

 

2007-2017

※過去に研究紹介として書いていたものです

「災害情報と社会心理」に関する研究

 災害時のよりよい避難行動・防災行動、よりよい復興対策のために、さまざまな主体がメディア・報道を通じてどのような情報を伝え、どのような活動をとるべきか。これを見出すために、各種の共同研究プロジェクトに参画し、災害時の住民の心理・情報行動、情報伝達における問題点を調査・検討している。水害、火山、地震時における住民の心理・情報行動・避難行動、行政・報道機関の実態、富士山噴火など想定災害の経済的・社会心理的影響などに関して、多くのインタビュー調査・量的調査・悉皆調査によって共同で研究している。個人としては、特に、災害報道の逆機能、災害の経済被害、災害文化、富士山噴火という想定災害について社会経済的影響、気象災害における避難行動の心理を明らかにすることを試みている。


「環境問題におけるジャーナリズム/メディアと社会心理」についての研究

 環境報道と環境広告に焦点をあて、社会心理史的・社会心理学的視点から研究を行っている。報道については、戦後の公害・原子力事故に焦点をあて、ジャーナリズムの変質過程とそれを支えた予防原則などの思想や世論潮流・社会心理との関係性について社会心理史的な接近を試みている。広告については、送り手と受け手についての量的調査、CF・新聞広告の内容分析、ヒアリング調査を行い、研究を深化、精緻化している。社会心理によって、企業の実際の環境対策や広報活動、広告の内容や表現手法が規定されていることを見出している。
 これらの個々の研究を通じて「環境問題と社会心理」の関係性、そこにおけるメディア・情報の役割、メディア・情報様式の形成過程を総体的に浮かび上がらせようと試みている。そこから環境問題という具体的な事例を通して、社会問題をめぐる報道、ジャーナリズム、広告のあり方を考えている。


「日本人の安全観」「風評被害」「センセーショナリズム」に関する研究心理」についての研究

 日本人が安全・安心をどのように考えているのかについて、原子力事故、狂牛病・鳥インフルエンザ・SARSなどのバイオハザード、食品問題、環境問題、自然災害、また経済問題などを比較し、社会心理学的な共通点・相違点を流言の分析や質的・量的調査から研究している。また「原子力の安全神話」の形成過程の歴史的研究なども行ってきた。「感情的な安全認識」、「報道・社会現象に影響を受ける心理」「安全をめぐる心理の要素」「安全をめぐる根本的な観念」の存在と、それらと「具体的な対象に対する不安・安心の感情」との関係性について、徐々に実証的に明らかにしつつある。これは報道と感情の関係というマスコミュニケーション研究が見落としてきた課題でもある。この延長線上には、情報過多社会の社会問題である「風評被害」がある。「風評被害」の社会心理的メカニズムおよび解決策についても研究を重ね、報告してきた。
 これは、人々の安全に関わる様々な報道の「センセーショナリズム」「報道における『科学』の扱い」、「報道や情報公開に伴う経済的影響」「公害報道、環境報道の抑止力としての風評被害」という現実的問題に社会心理学の観点から接近するものでもある。これら現実的課題に貢献できるよう取り組んでいる。